2026/08/25

江戸人の毛髪が語る!ミネラル豊かな食生活と有害物質


研究概要と目的

古書に残された毛髪を分析し、江戸時代都市部の食生活とミネラル含有量を現代と比較した。分析により、当時の食事が現代よりミネラルが豊富であったことが確認された。

調査対象とサンプル構成

龍谷大学大宮図書館等が所蔵する約7万冊の和本から、印刷地域・年代が特定できる約400部を収集した。対象は京都、 Osaka、東京で印刷された、17世紀中頃から19世紀末の書籍である。再生厚紙の表紙に混入した毛髪を採取し、タイムカプセルとして利用した。

  • 104部で粒子線励起X線分析(PixE)による多元素定量を実施
  • 161部で安定同位体分析による食性推定を実施
  • 75部で多元素定量と安定同位体分析を統合実施

分析手法

多元素定量は粒子線励起X線分析(PixE)でCl、K、Ca、Mn、Fe、Cu、Pb、Zn を測定した。

安定同位体分析は炭素・窒素同位体比から米、C3植物、海産魚の食事構成を推定した。

ミネラル濃度の結果

カルシウム、鉄、マンガン、銅の濃度は現代都市住民の毛髪より高いことが確認された。

亜鉛は現代より低いことが確認された。

海産魚由来と推測されるマンガン、鉄、銅が高濃度で残存した。

これらのミネラル分布を踏まえて、長期的な栄養素変化の検討に移行した。

栄養素の長期変遷

玄米に多いカリウムとケイ素は250年間で徐々に減少した。

白米(精白米)の普及に伴いカリウムとケイ素が減少した。

米と海産物への依存が全都市で増加した。

有害物質の検出

鉛が高濃度で検出された。白粉(おしろい)使用が原因と推測された。

塩素も高濃度で検出された。白粉使用と同様の要因が示唆された。

有害物質の検出結果は、ミネラル濃度の評価と合わせて食生活全体像の把握に資した。

食生活構造の特徴

庶民は米中心のC3植物と海産魚に依存した。

豚肉・牛肉の摂取が制限された結果、亜鉛の低下と合致した。

研究チームと出版情報

  • 丸山敦教授(龍谷大学先端理工学部、Ecology)
  • 入口敦志教授(国文学研究資料館、副館長)
  • 及川将一(QST量子医科学研究所、静電加速器運転室長)

研究成果は2026年8月17日に英科学誌 Scientific Reports に掲載され、同日に龍谷大学チームが発表した。

資金・支援

  • 日本学術振興会 科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究、2019年7月~2023年3月)
  • 公益信託エスペック地球環境研究・技術基金(2019年8月~2021年10月)

社会的・歴史的背景

江戸時代に古紙回収・再利用が盛んで、再生厚紙の表紙に毛髪が混入した。

出版物の増加が毛髪サンプル取得を可能にした。

反故紙や毛髪回収業者が存在し、紙への毛髪混入が頻発した。