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タイトル: 影の付箋 濃紺の付箋は、光るだけの不思議な紙だった。母の指が紙に触れた瞬間、淡い光が揺れ、文字が浮かび上がる――「忘れないで、影はそこに」か「それは病だけでなく、忘れた記憶でもある」かは、手に取るまで分からない。 診察室の蛍光灯が壁に映り、秒針が音を刻む。血圧計が青く光り、消毒薬の匂いが漂う。医師は手袋をはめ直し、低く言った。「そう、それは病気だから」光はかすかに揺れ、文字がひとつずつ変わっていく。 診察が終わり、私は自宅へ戻った。部屋の隅に置かれた小さな冷蔵庫――そこに、診察室で受け取った付箋を忍ばせていた。冷蔵庫は冷たさと暗さが、光を止めて記憶を凍らせる場所だと、無意識に感じたからだ。扉を開くと、光はすっかり消えていたが、紙の裏に新しい文字が現れた。「影は、忘れた自分の声だ」同時に、付箋に埋め込まれた微細なセンサーが、影の揺れを音に変え、かすかな囁きが耳元に届く。 私は影に手を伸ばした。指先が触れた瞬間、光がちらつき、影の声が続いた。「忘れた自分は、病という名の裏に隠れた、まだ語られていない物語だ」光が消えると、部屋の灯りが揺れ、闇に溶けた。闇の中で影は新しい質問を投げかけた――「本当の自分は、何を求めているのか」 その問いに、胸の奥で小さな鼓動が速くなり、恐怖と同時に奇妙な安堵が広がった。自分の中に潜んでいた声が、ようやく呼び覚まされたように思えたからだ。 光が戻らない冷蔵庫の扉裏に、淡く残る文字だけが次に誰かが触れるまで静かに待っている――それは、まだ書かれていない次の「影」の物語。 参考URL一覧 (該当なし)
