米国の制裁措置
米国は2026年8月19日にICC所長赤根智子を制裁対象に指定した。指定は大統領令14203号(2025年2月6日)に基づく金融制裁であり、IEEPA(国家緊急経済権限法)を根拠としている。
累計で13名が制裁対象となり、赤根智子とアブドゥライ・セエが2026年に追加された。2025年にはICC主任検察官カリム・カーン、複数のICC裁判官、パレスチナNGO等が対象となっている。
- 米国内資産の凍結と資産移動の禁止が金融制裁として実施された。
- 直系家族への入国禁止とビザ取消が一次的制裁として付与された。
- 米系金融機関・IT企業による取引停止とアカウント凍結が二次的影響として生じた。
米国はICCの捜査・逮捕・訴追が米国の国家安全保障に「異例かつ重大な脅威」と宣言した。赤根智子が「非同意国の高官に対する捜査・逮捕に直接関与」したと主張された。イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフへの逮捕状発行が制裁の直接的トリガーとなった。
米国財務省のOFACは2026年8月18日に赤根智子とアブドゥライ・セエをSDNリストに追加し、資産凍結と米金融システムからの排除を実施した。制裁はIEEPAに基づく大統領令に依拠している。
米国最高裁は2026年2月にIEEPAが関税権限を付与していないとして関税措置を違法と判断した。下院は「Illegitimate Court Counteraction Act」を可決し、行政訴訟(Smith v. Trump 等)で暫定差止めが出された事例がある。
ICCの機能・構造・加盟状況
米国の制裁措置の背景を踏まえ、ICC の組織と最近の活動を概観する。
ICC は2002年に設立された常設国際刑事裁判所で、戦争犯罪・人道に対する罪を個人に問う機関として機能する。「法の支配の最後の砦」と称される。
2025年初頭に職員給与の3か月分前払い、欧州系サーバーへの移行などの運営調整が行われた。
加盟国は実質125か国・地域に上り、日本は2007年に加盟した。日本は予算の約10%を拠出し、最大の分担金拠出国である。正規職員は約千人で、邦人職員は十数名、国別分析ユニット長・対外関係局長は日本人が務めている。
2021年のタリバン政権奪取後、戦争犯罪捜査は実質停止した。
日本政府・外務省の声明・対応
外務報道官北村俊博は2026年8月19日に「大変残念だ」と表明し、ICC が重大犯罪の責任追及を通じて国際社会の法の支配強化に重要な役割を果たすと指摘した。各国はICC の活動を損なわず、司法手続きの独立性と公平性を尊重すべきであると述べ、英語版でも “very unfortunate” が使用された。
日本政府はICC を一貫して支持し、法の支配強化に取り組む旨を強調した。今後も関係国と意思疎通を取りつつ、国際社会における法の支配の強化に努めるとした。
高市早苗首相は「大変残念に思っております」と述べ、岩屋毅外務大臣は米国務長官ルビオと会談し日本の懸念を直接伝達した。岸田文雄首相(2022年)はICC 支援強化を特筆した。
国際社会・他国・機関の反応
- ICC 締約国会議(ASP)は米国制裁を強く批判する決議(Res.6)を採択した。
- 国連事務総長アンジェラ・メルケルは2026年8月19日に「深刻な懸念」を表明した。
- 欧州連合は「受け入れがたく前例のない措置」と批判し、Blocking Statute の適用を検討した。
- オランダ政府は金融機関に米制裁に追随しないよう働きかけた。
- 超党派国会議員連盟は法の支配に対する重大な侵害として緊急声明を出した。
- 自民党中堅議員は日米同盟は盤石とは言えず、米国と対峙は得策でないと指摘した。
- 共産党・立憲民主党など複数野党議員は制裁が法の支配を踏みにじると批判し、より強い表現を求めた。
制裁の法的根拠・メカニズム
IEEPA は大統領に国家緊急事態時の特別経済権限を付与する。大統領令14203号が同法に基づき発令された。
行政命令第3条と INA 第212条(f) は指定者と直系家族の米国入国ビザ発給停止・既発給ビザ取消を付与する。
OFAC の SDN リストに指定された者は米系カード(Visa, Mastercard, Amex, Discover)の利用が不可となる。米系 IT 企業(Apple, Amazon, Google, Microsoft)はアカウントを自動凍結・解約する。非米国金融機関も米ドル決済回避のため即時凍結・解約が行われた。特別許可(Specific License)や削除請願(Delisting Petition)の手続きが存在する。
二次的影響として米系決済・SWIFT 経由の米ドル清算が利用不能となり、非米ドル現金、ローカル決済ネットワーク、米ドル非使用金融機関口座が代替手段として活用された。ICC は米系クラウドサービスから脱米化し、欧州データセンターとオープンソースソフトウェアへ移行した。
国内政治・議論・影響
米国の制裁措置に対する国内の議論は複数の層で展開された。
- 外務省幹部は「米国は何としてもICC を弱体化させたい」と述べた。
- 外務省関係者は「トランプ政権の姿勢を変えるのは非現実的」と指摘した。
- 超党派国会議員連盟は「最強の言葉で」非難する緊急声明を出した。
- 小池晃書記局長(共産党)は「残念で済む話ではない」― 法の支配踏みにじり撤回を求めた。
- 山添拓参院議員(共産党)は「残念がっている場合ではない」― 直ちに抗議・撤回を要求した。
- 小西洋之参院議員(立憲民主党)は「大変残念です」表現は「誠に遺憾だ」くらいにすべきと指摘した。
- 小川淳也代表(中道改革連合)は「司法の独立と法の支配を揺るがす」― 政府対応は不十分とした。
- 日本国内法にはジェノサイド罪・反人道罪等の直接的処罰規定が未整備である。
- 2025年2月7日開催の ICC 締約国79カ国共同声明に日本が不参加であった。