2026/08/21

米制裁でICC赤根智子がハーグで警戒生活―国際法危機


米国による制裁措置

2024年8月18日、トランプ大統領は大統領令14203号(IEEPA根拠)に基づき、国際刑事裁判所(ICC)所長の赤根智子氏と上級弁護士アブドゥライ・セエ氏を制裁対象に指定した。

制裁内容は資産凍結、米国入国禁止、米国人・米企業との取引禁止である。米国務長官ルビオは、ICCが権限を乱用し非加盟国への管轄権行使を「主権侵害」と主張した。

OFACは赤根氏が直接・間接に50%以上所有する法人にも「50%ルール」を適用し、SDN扱いの可能性を示した。2026年8月18日、米財務省は赤根氏とセエ氏をSDNリストに追加し、資産凍結と米金融システムからの排除を指示した。General License 12により、取引整理の猶予期間は2026年9月17日0時1分(米東部夏時間)まで設定された。

オランダ政府の立場

ICC本部所在国であるオランダは、米国の制裁に強く反発し、公式に「制裁を認めない」と表明した。外相ベーレンドセンは、米国の行動が国際法秩序を危機にさらすと指摘した。

ハーグでは、赤根所長は警戒下で生活しており、自宅と職場の往復が基本である。警護(SP)が同行し、編集者鳥嶋七実がハーグの裁判所で赤根氏と職員のやり取りを目撃した。

ICCの活動と背景

赤根智子氏は2024年3月11日に日本人初のICC所長に就任し、任期は2027年3月10日までである。2024年11月、ICCはガザ攻撃に関しイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ氏らに戦争犯罪容疑の逮捕状を発行した。

ICCは2002年に設立され、ローマ規程に基づきジェノサイド、人道罪、戦争犯罪の管轄権を有する。2024年7月時点で、125か国・地域(日本含む)が逮捕状に基づく身柄拘束義務を有している。米国とイスラエルはローマ規程非加盟国であり、ICCの管轄権行使を主権侵害と主張している。

このようなICCの行動を受け、ロシアは2023年3月20日に捜査を開始し、同年7月27日に赤根氏を刑法違反容疑で指名手配した。

ロシアおよび他国の反応

  • ロシア連邦捜査委員会は2025年12月12日、モスクワ裁判所が赤根氏ら9名の判事に対し欠席裁判で3年半から15年の懲役判決を言い渡した。日本政府はこの欠席判決を不当と批判し、ICCおよびオランダ当局に安全確保を要請した。
  • 欧州連合はロシアの措置を「政治的動機に基づく根拠のない行為」と非難し、ICC締約国会議はロシアの威嚇行為を批判する決議(ICC‑ASP/24/Res.6)を採択した。
  • 日本政府は米国の制裁に「大変残念」と表明し、日米同盟を維持しつつICC支援を継続するとした。2026年8月19日、北村俊博報道官が公式見解を発表した。
  • 日本の金融機関はOFAC規制に従い、赤根氏および関与取引を拒否・停止・制限した。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチ、オープン・ソサエティ財団等の人権団体は、2026年6月にニューヨークで米制裁の無効化を求めて訴訟を提起した。訴訟は米制裁が国際法軽視・司法裁きを阻止する試みであると批判した。

法的・制度的枠組み

  • ローマ規程第48条第2項は裁判官・検察官に外交特権・免除を認める。
  • ローマ規程第70条第1項(d)(e)は、裁判官等への脅迫・報復を「司法の正当な維持に対する罪」と位置付ける可能性がある。
  • 大統領令14203号はICCの活動を「異例かつ重大な脅威」と宣言し、一次制裁として資産凍結・入国禁止・査証取消を規定した。二次制裁リスクとして、民間企業の過剰遵守(over‑compliance)により取引遮断が拡大する可能性が指摘されている。

制裁の影響と金融面

資産凍結により赤根氏の米国内資産が凍結された。米ドル取引を行う銀行は制裁遵守を求められ、取引停止が広がっている。

米国内では、大統領令14203号に対しL.C. v. Trump、Rona v. Trump等の案件で部分的に差し止め命令が出されている。

赤根智子氏の人物経歴

赤根智子氏は1956年6月28日生まれ(愛知県名古屋市)で、1980年に東京大学法学部を卒業し、1982年に検事任官した。横浜・名古屋・仙台・東京の地方検察庁で勤務し、ジャクソンヴィル州立大学の刑事司法コースを修了した。名古屋大学・中京大学大学院法務研究科の教授を務め、2013年に法務省国際連合研修協力部長、2014‑2016年に法務総合研究所長を歴任した。2010年8月に最高検察庁検事に任命された。

2018年3月11日にICC裁判官に就任し、2024年3月11日に第6代ICC所長に選出された(任期2027年3月10日)。ロシアからの指名手配・欠席判決に直面しつつ、ハーグで警戒生活を送っている。週末はジム通いを続け、アフリカ出張でICCの業務を行っている。著書『戦争犯罪と戦う』(文春新書)を執筆・出版し、編集者鳥嶋七実が担当編集者として取材を行っている。