エネルギー需給構造の強靱化総合パッケージ
日本政府は「エネルギー需給構造の強靱化総合パッケージ」を策定し、2024‑05‑25に公表した。背景は中東情勢の混乱とホルムズ海峡封鎖リスクであり、目的は原油調達先の多角化とサプライチェーンの強靱化である。
同パッケージは2026‑08‑25に再公表され、代替パイプライン建設へのコスト支援が明言された。具体策はホルムズ海峡迂回の原油輸送ルート確保と、代替パイプラインへの支援である。
中東原油依存度と輸入額
2025年の原油中東依存度は約94 %で、同年の中東原油輸入額は9.5 兆円(前年比‑12.4 %)である。2026年3月以降、ホルムズ海峡封鎖に伴い輸入量がさらに減少すると予測されている。
代替輸送インフラの余力
- UAE アブダビ原油パイプライン(ADCOP) 設計最大150‑180 万バレル/日、緊急余力約90 万バレル/日。
- サウジアラビア東西パイプライン(Petroline) 最大700 万バレル/日、通常利用200 万バレル/日、余力約500 万バレル/日。
- ヤンブー港(サウジ) 最大積み出し能力400‑450 万バレル/日、実質余力約300 万バレル/日。
- UAE フジャイラ港 貯蔵能力7,000万バレル以上、米国・中東以外への輸送拠点。
上記パイプラインと港湾の総余力は約350‑550万バレル/日であり、ホルムズ海峡日量(約2,000万バレル)の約20‑27 %に相当する。
海上輸送と航路の現状
- 大型タンカー(VLCC)は1隻約200 万バレルを積載し、平時は日量300 万バレル供給に1.5隻が必要。
- 喜望峰ルート(米国・南アフリカ経由)は所要日数45‑60日であり、中東経路(20‑30日)に比べて輸送費・燃料費が大幅に増加し、VLCCチャーターレートが上昇した。
- 2026‑03‑初旬に日本向け約5隻、ペルシャ湾内8隻が足止めされた。
- 2026‑04‑下旬に足止め船舶は21隻に回復した。
原油輸入量・価格の統計
- 2025年の中東原油シェアはUAE 42.3 %、サウジ 39.8 %、クウェート約6 %。
- 2025年の中東からの輸入量は12,896万キロリットル(‑0.9 %)。
- 2026年5月の原油輸入日量は前年同期比‑61.9 %。
- 2026年5月の原油価格は3月の101 $(WTI)から7月に86.85 $に変動した。
自衛隊の情報収集活動と航行安全
令和1年から令和8年にかけて、オマーン湾、アラビア海北部、バブ・エル・マンデブ海峡東側(ホルムズ海峡除外)で情報収集が実施された。手段はP‑3CからP‑1哨戒機への切替、海賊対処艦艇への情報任務付与である。人員は海賊対処部隊約200名、航空隊約60名(P‑1へ切替後≈50名)で、令和2年1月に開始し、令和8年11月19日まで延長された。
開始以降、日本関係船舶への特異事象は未確認である。不測事態時は省庁連携で海上警備行動が発令され、結果は国会に報告された。
政府・外交の情報共有と国際協議
情報収集はIMSCに参加せず、米海軍中央司令部(NAVCENT)への連絡官経由で情報が共有された。米国はIMSC不参加を理解し、イランは日本の透明性を評価した。2026‑04‑03に開催されたIMO・G7等外相級会合で海上回廊確保が議論された。
代替調達余力とリスク
代替パイプラインの総余力はホルムズ海峡日量の20‑27 %に留まる。UAE・サウジのパイプライン・港でも全体の約2割しか補填できない。保険会社がWar‑risk保険を停止したため、商船の通航は実質的に不可能となっている。LNG輸送は超低温が必要でパイプライン迂回が不可であり、約27 %が海峡経由であるため、封鎖の影響が大きい。
備蓄と供給安定策
- 国家備蓄は2026‑01‑末時点で248日分、2026‑03‑26に1か月分が放出された。
- 5月以降は追加で20日分が放出された。
- IEAは4億バレル規模の戦略備蓄(SPR)協調放出を検討中である。
- 2026‑07の予測では代替調達で日量224万バレルを超え、備蓄で約200日分が確保され、2028‑03末まで安定供給が可能と見込まれる。
将来展望と制度検討
- 非中東圏(米国・メキシコ湾岸・中南米・中央アジア)からの原油・石油製品調達拡大が課題として示されている。
- 2026‑15では危険地域タンカーの保険金国が肩代わりする新法草案が検討されている。
- エネルギー安全保障の方針として、単一ルート依存から多元供給・代替輸送インフラの整備が示されている。
イラン・米国の動向と地域対応
- 2026‑02‑28に米国・イスラエルがイランに対して攻撃を実施し、以降イランがホルムズ海峡商船攻撃を行った。
- 2026‑06‑20にイラン革命防衛隊が海峡再封鎖を宣言し、米国CENTCOMは55隻が通過したと報告した。
- 2026‑06‑14の「イスラマバード覚書」では米国がイラン産原油制裁免除、60日以内に核協議開始、イランが海峡安全確保を約束した。
- UAE・サウジの代替輸送は全体の約2割に留まった(2026‑05‑26)。
- パキスタンは2026‑04‑07に停戦仲介を行い、国連は2026‑03‑31に専門タスクフォースを設立した。
競合輸送手段
- メキシコ湾岸ルートは2026年5月に9隻、約1,200万バレル相当が利用された。
- 米国・南部から喜望峰経由は輸送日数が長期化し、天候リスクが増大した。
- LNG輸送は航空・海上リスクが増大し、ボイルオフ問題が指摘された。