プロジェクト概要と目的
「ペットと人のウェルビーイング」プロジェクトは2024年に始動し、2026年8月26日に再掲された。
企業・有識者・生活者が協働で実施する。
目的はペットの幸福と飼い主の健康・生活の質向上を結び付け、日常で実践できる情報を提供することである。
主催・情報発信体制
株式会社朝日新聞社が主催し、ペットメディア「sippo」を運営している。
「sippo」のスローガンは「犬や猫ともっと幸せに。ずっと幸せに。」である。
プロジェクト開始に合わせて特設サイト(https://sippo.asahi.com/ppw)が公開された。
特設サイトには5ドメインの基本解説、取材記事、飼い主向け実践ヒントが掲載されている。
公式SNSはX(@ppwellbeing_pj)、Instagram(@pets_people_wellbeing)、Facebook(profile id 61591146015120)であり、写真・短い動画で実践のきっかけを提供する。
趣旨に賛同する企業・団体の参加募集は継続している。
参画企業・組織
- 株式会社Mizkan(発足時に参画)
- スペクトラム ブランズ ジャパン株式会社(発足時に参画)
- 株式会社PETSPOT(ペットフレンドリー社会実現のため、生活・職場環境づくり、ブランド・サービス提供)
- sippo(情報発信のハブとして機能)
PETSPOTは2021年7月に創業者羽鳥友里恵(愛玩動物飼養管理士・ペット防災危機管理士)により設立された。
アドバイザー・専門家
- 西村亮平(東京大学名誉教授)
- 谷田創(広島大学名誉教授)
- 田中亜紀(日本獣医生命科学大学特任教授)
- 山田昌弘(中央大学文学部教授)
- 菊水健史(麻布大学獣医学部教授)
- 入交眞巳(東京農工大学ワンウェルフェア高等研究所特任准教授)
5ドメインと国際的背景
5ドメインは栄養・環境・健康・機会・精神状態から構成され、1994年にニュージーランド・マッセー大学の研究者らが提案した。
当初は「飢え・痛み・恐怖」等の否定的状態評価が中心であった。
改訂により「快適さ・楽しさ・選択機会」等の正の経験も重視された。
2025年に世界動物保健機関(WOAH)の陸生動物衛生規約に組み込まれ、国際的に注目された。
WOAHは5ドメインを公式規約に採用した。
世界保健機関(WHO)は1948年に「身体的・精神的・社会的」の3領域を定義し、本プロジェクトでは「からだ・こころ・社会」と呼称している。
ペットウェルビーイングの構成要素
ペットのウェルビーイングは「からだ」「こころ」「社会」の3領域で示される。
- からだ:栄養・健康管理(例:毎日の食事・新鮮な水、年齢・体調に合わせたフード)
- こころ:精神状態・感情(例:快適さ・楽しさ・不安軽減)
- 社会:環境・機会・他者との関わり(例:適切な温度・騒音管理、隠れ場所、遊び・探索の機会)
各ドメインの具体例は以下の通りである。
- 栄養:質の良いフードを適量与える。猫は少量多頻度が基本。
- 環境:清潔さ、適温、騒音・におい配慮、隠れ場所の確保(犬は視線遮断、猫は高所)。
- 健康:定期的観察と健康管理、早期発見が治療成功の鍵。
- 機会:遊び・探索・他者交流の提供、行動選択権の確保。
- 精神状態:不安・ストレス低減、喜び・安心・達成感といったポジティブ感情の増加。
日本のペット飼育状況と社会的背景
犬・猫の飼育率は約10数%ずつで、合計約25%である。
全人口の約40〜50%が飼育経験を有する。
小動物の飼育率は約5%で、全体のペット飼育率は約30%前後と推計される。
令和5年全国犬猫飼育実態調査によれば、4世帯に1世帯がペットと同居している。
2022年の犬の推計飼育頭数は約705万頭で、新規飼育頭数は約42.6万頭であり、過去10年で最多である。
家族の定義が血縁・婚姻から心理的愛情へ変化し、未婚・離婚・長寿化に伴い配偶者・子どもがいない人が増加している。
経済的余裕がペットへの支出を可能にし、家族化が進行しているという傾向が示されている。
地域比較では、東アジアは家族主義社会でペットへの支援が限定的であるのに対し、欧米は普遍主義社会で動物福祉が広く浸透している。
ペットフレンドリー社会は「ワンちゃんやネコちゃんと暮らしやすい社会」+「ペット有無が共存できる社会」と定義される。
ペットと人間の健康への影響
研究により、人がペットと触れ合うとオキシトシン、セロトニン、フェニルエチルアミンが分泌することが示されている。
週2回の犬セラピーは子どものコルチゾールを顕著に低下させた(PLOS ONE 2022)。
犬飼育家庭の子どもは社会的情緒発達が良好である(Pediatric Research)。
ペットロス症候群と獣医療の潮流
坂元薫(精神科医)が日本医師会会報で定義したペットロス症候群は不眠・食欲変動・身体的痛み等の症状を含む。
獣医療は根拠に基づく医療(EBM)と物語に基づく医療(NBM)の併用が推奨され、飼い主と獣医師が協議して最適治療方針を決定する。
課題と今後の展望
参画企業は各ドメインに沿った商品・サービス・知見を活用し、企画・成果を発信する。
課題例として、ペット不可だった場所やサービスをペットOKに転換する際に、動線調整などの実務的ハードルが生じる。
日本企業約385万社のうち、ペット死亡時の福利厚生制度導入は約22社に留まっている。
労働者の約8割がペットを理由に休むことを言いにくいと回答している。
大阪・関西万博(テーマ:「いのち輝く未来社会のデザイン」)では、ペット同伴入場の可否検討委員会が設置された(日本国際博覧会協会)。
5ドメインの国際的認知拡大に伴い、日本の行政・教育現場での導入促進が期待されている。
参考文献・情報源
- WHO(1948年)「身体的・精神的・社会的」定義
- WOAH(2025年)陸生動物衛生規約への5ドメイン組込み
- David Mellor et al.(1994, 2020)Five Domains フレームワーク
- FAWC(1979)「5つの自由」
- ASV(2022)シェルター福祉ガイドライン(Five Domains)
- 各大学・獣医附属病院のカリキュラム導入例(麻布大学・日本獣医生命科学大学等)