売春防止法と風俗営業適正化法の現行制度
売春防止法は1956年に制定された。あっせん・管理・場所提供などの周辺行為を罰則対象とし、売春行為自体は非刑罰化している。売る側の勧誘等は6か月以下の拘禁または2万円以下の罰金で処罰されるが、買う側への罰則は規定されていない。風俗営業適正化法は、性風俗店の営業を公安委員会の管理監督下で事実上認めている。
現行法に関する統計と問題点
法務省の統計は次のとおりである。
- 2022年:542件
- 2023年:653件
- 2024年:615件
各年の「客待ち等」の勧誘罪は約300件で、多くが不起訴または起訴猶予となっている。
現行法は売る側だけを罰則対象とし、性を売らざるを得ない女性が検挙される構造が指摘されている。2025年11月に高市早苗首相と法務大臣が法改正を指示した。
近年の社会的事例
2023年に悪質なホストクラブで若年女性が多額の借金を背負い売春に追い込まれた事例が批判の焦点となった。
2025年11月に、タイ国籍12歳少女が東京都内の店舗で性的サービスを強要された事件が発覚し、改正要求が高まった。
有識者検討会の設置と議論内容
2026年3月24日、霞が関で有識者検討会が初会合を開催した。座長は北川佳世子(早稲田大学院)である。
出席メンバーの例は次のとおりである。
- 入江淳子(東京地検 刑事部副部長)
- 薄井真由子(静岡地裁 沼津支部 部総括判事)
- 大沢陽一郎(宮城テレビ 常務取締役)
- 大橋君平(弁護士)
- 川崎友巳(同志社大学 刑事法教授)
- 桜井鼓(追手門学院大学 臨床心理学教授)
- 佐藤陽子(成蹊大学 刑事法教授)
- 大門雅弘(警察庁 生活安全局保安課長)
- 古川伸彦(名古屋大学院 刑事法教授)
- 星周一郎(東京都立大学 刑事法教授)
議論の主旨は、法律の不均衡是正として買う側も処罰対象にすべき方針を報告書案に盛り込むことである。売る側への罰則は維持すると判断された。買う側の路上うろつき行為の立証が困難である点が課題として指摘された。
改正案の主要内容とスケジュール
報告書案は次の点を盛り込んでいる。
- 「勧誘等罪」の対象を売る側から買う側へ拡大
- 罰金上限の引き上げ
- 公衆の目に触れる形での買う側の勧誘を罰則対象に追加
2026年4月7日に検討会で案が提示された。2026年9月中に秋の臨時国会へ改正法案を提出し、同国会で審議される予定である。
この改正案は、北欧諸国のモデルを参考にしている。
国際比較:北欧モデル等
スウェーデン(1999年)は買う側を犯罪化し、売る側を非犯罪化した上で支援サービスを提供した。施行前の路上売春従事者は726人で、施行後は340人に減少した。
フランス(2016年)は買う側を犯罪化し、売る側の処罰を廃止、離脱支援制度を導入した。起訴件数は2016年に257件、2017年に1005件、2018年に745件である。離脱支援利用者は約230人(2019年6月)である。
北欧モデルを導入した国は以下のとおりである。
- ノルウェー:2009年
- アイスランド:2010年
- カナダ:2014年
- 北アイルランド:2015年
- フランス:2016年
- アイルランド:2017年
- イスラエル:2019年
ニュージーランドは2003年に非犯罪化した。2008年の調査では業界の大幅拡大は確認されず、64.8%が客を断りやすいと回答した。
米国は多数州を除き売買春を全面犯罪化している。
国連人権高等弁務官事務所は、犯罪化が差別・暴力を助長し司法アクセスを阻む恐れがあると評価した。福祉支援が不十分な国では効果が限定的であると指摘している。
関係者の意見
法務省は2026年中に法改正を視野に議論を進める方針を示した。法相・平口洋は国民の自由制限への慎重な検討を表明した。
慶応大学の大林啓吾は、憲法第13条の個人尊重観点から公権力の私的領域介入は慎重にすべきと指摘した。
弁護士の角田由紀子は、売防法が2022年改正まで「保護更生」を謳っていた点を批判した。女性支援法での予算措置を主張した。
一般社団法人Colabo代表の仁藤夢乃は、買う側への処罰を求めている。
課題と今後の展望
法改正の範囲は買う側処罰だけでなく、売春防止法の目的規定の見直しや被害者支援枠組みの強化も検討対象となっている。
買う側の路上うろつき行為を客観的に区別・立証することが困難である。処罰対象行為の明確化が必要である。
2026年秋の臨時国会で改正法案が審議され、必要に応じて来年の通常国会へ持ち越し検討される予定である。
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