日中間の外交摩擦と主張の矛盾
中国政府および外務省は、対日批判のトーンを強化しています。11月7日に高市早苗首相が台湾情勢について「存立危機事態になり得る」との見解を示したことを受け、11月10日に「内政干渉」であり「一つの中国原則に反する」として強く抗議しました。あわせて、11月14日には日本への渡航自粛を呼びかけています。
中国側は、日本で中国人への「憎悪犯罪」が急増していると主張しています。その根拠として、チャイナ・デイリー報が報じた中国人への暴行容疑で5人が逮捕された事例を挙げています。また、警察庁統計を引用し、刑法犯罪認知件数が2021年の56.8万件から2024年には73.8万件に増加し、重大暴力犯罪が約65.7%急増したことを指摘しています。あわせて、SNS上の反中発言の急増や、右翼団体による大使館職員への嫌がらせを理由に身の危険を強調しています。
これに対し、日本政府は中国側の主張を否定しています。外務省は、中国国籍者への犯罪急増および安全リスクが高まっているとの認識を否定し、被害者が中国国籍である凶悪犯罪データを公表して反論しました。防衛省は、中国外務省の反応を「事実に基づかない主張」とし、中国の国防費や核弾頭数などの不透明性を批判しています。また、中国側による「新型軍国主義」との批判に対し、小泉進次郎防衛相が否定したところ、中国側はこれを「根拠のない言い逃れ」と非難しています。
こうした主張の矛盾は、他国との関係でも見られます。太平洋諸島フォーラム(PIF)は、中国軍が7月に実施した戦略ミサイルの太平洋発射実験において、十分な事前通告なしに加盟国上空を通過したとして懸念を表明し、少なくとも24時間前の通告を求める共同声明を採択しました。これに対し、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は、防御的な国防政策を推進しており軍事的拡大は行っていないと主張し、PIFの指摘と矛盾する回答を行いました。
認知戦のメカニズムと偽情報の類型
こうした外交的な主張や情報操作の背景には、情報を武器にして人の考えや行動を操る「認知戦」の手法が存在します。内閣官房は、認知戦で用いられる偽情報を以下の3つの類型に分類しています。
- 国際的評価・信用の毀損:AI生成画像や加工画像を用いた偽投稿
- 他国・地域との関係への悪影響:偽造公文書や不自然な日本語を用いた偽ニュースサイト
- 社会の分断・不安定化の助長:経歴捏造記事やディープフェイク動画
これらの情報は、アルゴリズムによって関心の高い情報のみが届く「フィルターバブル」という現象を通じて拡散されます。
SNS分析による認知戦の実態
サカナAIは、独自のアルゴリズムを用いた「ナラティブの抽出とクラスター化」という分析手法を用いて調査を実施しました。その結果、中国外務省が11月13日に抗議した後にSNS上の日本批判投稿が急増し、18日には約3倍に到達したことが判明しました。
言語圏別の傾向では、中国語圏は「当局の意向に沿った批判」、英語圏は「排外主義・人権意識の低さ」が主流となっています。また、外務省出身の石井順也氏と伊藤錬氏が参画し、生成AIの活用によって日本語プロパガンダが容易になることへの脅威を指摘しています。
対抗策と社会全体のレジリエンス向上
日本政府は、2022年12月の国家安全保障戦略に基づき、2025年9月に対応体制を強化します。内閣官房副長官の調整下で、内閣情報調査室、外務省、防衛省などが連携する新体制を構築します。また、G7の即応メカニズム(RRM)や日米豪印(Quad)、NATOなどの同志国(米国、豪州、ニュージーランド、EU、ポーランド、ウクライナ等)と連携し、情報操作へ共同で対応します。
外務省は、受け手、メディア、NGOなどの情報リテラシー向上が不可欠であり、社会全体のレジリエンス(強じん性)を高める必要があるとの認識を示しています。この課題に対し、日本ファクトチェックセンター(JFC)は意識調査を実施し、回答者の51.5%が拡散した偽・誤情報を「正しい」と認識していたことを明らかにしました。これを受けて、偽情報の手口を事前に知ることで騙されにくくさせる「プレバンキング」の導入や、学生と連携した「ユースファクトチェック選手権(GenAsia Challenge)2025」の開催などの予防的取り組みが進められています。
あわせて、サカナAIによる政府機関向け分析ツールの提供や、民間アドバイザリーへの参入も視野に入っています。
#日中関係 #認知戦 #偽情報 #情報リテラシー #サカナAI