2026/09/06

不法滞在者ゼロプランの衝撃:加速する送還と人権の懸念


不法滞在者ゼロプランの策定と背景

令和8年1月時点で、日本国内には約6万8千人の不法残留者が存在しています。これを受け、出入国在留管理庁は2025年5月23日に「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」を公表しました。本プランは、ルールを守らない外国人の速やかな退去による共生社会の実現を目的としています。

主な数値目標(KPI)は以下の通りです。

  • 2030年末までに、退去強制確定者(約3,000人)を半減させる。
  • 護送官つき国費送還数を、2024年の249人から3年後(令和9年)までに倍増させる。

送還および審査を迅速化させる制度と運用

プランの目的を達成するため、2024年6月施行の改正入管難民法により送還停止効の例外規定が導入され、相当の理由がない限り、難民申請3回目以降の者の送還が可能となりました。あわせて、自発的に帰国する場合の再入国までの期間短縮についても検討されています。

また、2026年5月22日に発表された強力推進パッケージに基づき、以下の運用が強化されています。

  • B案件(難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を主張する案件)の類型化拡充による審査迅速化。
  • 被仮放免者および被監理者の収容、ならびに帰国説得の重点的な実施。

B案件の運用変更により、同案件の割合は2024年までの年間1%前後から、2025年には14.3%へ急増しました。B案件に振り分けられた者は、就労、医療アクセス、公的支援が認められません。

審査体制については、2024年4月時点で出身国情報専従職員数は12人であり、2026年中に審査期間の平均を6か月以内に短縮することを目標としています。

運用の結果としての送還実績と認定統計

令和7年の送還・出国者総数は17,352人でした。内訳は、出国命令による出国が9,789人、退去強制命令に基づく送還が7,563人(自費6,677人、国費なし505人、護送官つき318人)です。

特に護送官つき国費送還は急増しており、令和7年の318人は前年比1.3倍で過去最多となりました。月平均では、ゼロプラン発表前の1〜5月は約16人でしたが、発表後の6〜12月は約33人と約2倍に増加しています。また、2025年6〜8月の速報値は119人と、前年同期の58人から倍増しました。

国籍別の同送還数ではトルコが71人で最多です。そのうち30人は難民申請3回目以降の者で、全員が令和6年6月以降に送還されました。次いでフィリピン(46人)、スリランカ(44人)となっています。

一方で、難民認定の状況は以下の通りです。

  • 申請者数:11,298人(3年連続で1万人超)
  • 認定数:187人(うちアフガニスタン人が123人)
  • 認定率:1.4%(前年比0.8ポイント減、2年連続低下)
  • 国際比較(2024年認定率):英国 42.4%、ドイツ 約15.6%

人権上の懸念と個別事例

支援関係者、弁護士、団体からは、運用のあり方について以下の懸念が示されています。

  • 数値目標の達成や予算消化を優先し、帰国意思がある者へ性急な送還を行うことは不当であるとの主張。
  • 裁判中の難民や病者の強引な送還事例の指摘。
  • 申請書のみで「明らかに難民ではない」と判断することへの危険性と、審査制度の作り直しの主張。
  • ノン・ルフールマン原則、子どもの最善の利益、家族結合の原則への抵触。

個別事例として、帰国意思を示し航空券を予約していたクルド人家族が出頭時に収容され強制送還され、父親が到着直後に逮捕された事例や、30年以上日本に居住し日本語しか話せない子どもを含むギニア人家族が強制送還された事例が挙げられます。また、2025年1〜8月には7人の子どもが護送官つき国費送還の対象となりました。

国際基準と司法判断

国際的な基準および判例では、以下の点が示されています。

  • 難民条約:難民申請中の送還禁止が国際的な大原則である。
  • 国際人権法(自由権規約など):在留資格に関わらず、品位を損なう扱いを禁止している。
  • 国連特別報告者(ニルズ・メルザー氏):自主帰還同意を目的とした収容は「拷問」に該当する可能性がある。
  • 東京地方裁判所(2025年6月判決):収容には目的の合理性、必要性、および比例性が求められる。