2026/09/05

ホンダ69年ぶり赤字危機、EV撤退と原価低減へ舵を切った戦略転換


ホンダの業績悪化と戦略転換

ホンダの四輪事業では、中国EVメーカーによる低価格攻勢の影響で巨額の損失が発生しています。2025会計年度には上場以来69年ぶりとなる年間赤字の純損失4239億円を記録し、2026年3月期には4143億円の営業損失を計上する見込みです。EV関連の累積損失は1兆4500億円から1兆9700億円に達すると予測されています。

こうした状況を受け、ホンダはEV戦略を修正しました。北米向けEV 3車種の開発および市場投入の中止と長期EV販売目標の取り下げを決定し、ハイブリッド車(HEV)および内燃機関車両へ重点を回帰させています。背景には、米国の輸入関税による利益圧迫、原材料費や人件費の上昇、自動車技術の複雑化に伴うコスト増大といった外部要因があります。

原価低減に向けた具体的施策

ホンダは原価構造の根本的改革として、2030年までに累計1兆5000億円(約94億ドル)の原価低減を目指しています。特に以下の分野では30%以上のコスト削減を目標に掲げています。

  • プレス加工・鍛造部品、電装・機能部品、SDV(ソフトウェア定義車)関連部品
  • 2023年モデル比での次世代HVコスト

部品の共通化と標準化も推進し、EV専用部品を削減してHEVと共通利用可能な部品を拡大することで、市場変化に合わせた柔軟な生産比率への転換を図ります。

また、日産自動車との共同開発により、電子制御ユニット(ECU)、車載OS、ミドルウェア、車両制御ソフトを共通化します。2029年度以降の次世代車にこの基盤アーキテクチャを導入し、開発資源の最適化と重複開発の削減によるコスト低減を推進します。

競合他社の中国適応戦略

中国EVメーカー(BYD等)は、先進的なソフトウェアとバッテリー技術、業界最低水準の低価格を強みに、東南アジア、中南米、欧州でシェアを拡大しています。

トヨタ自動車は、開発権限を日本本社から「中国ONE R&D」体制へ移管し、「中国首席工程師制度」を導入しました。広汽トヨタの「bZ3X」では中国ブランドサプライヤー比率を65%(100社以上)とし、タイの新型EVでも2028年から中国部品を全面採用してコストを30%削減する計画です。

日産自動車は、「Total delivery Cost transformation(TdC)」組織を設置し、中国式マネジメントによるコスト変革を推進しています。

調達戦略の転換とサプライヤーへの影響

ホンダは調達戦略をオープン調達へ移行し、「ホンダ専業」の優遇を廃止して他社系列からも積極的に調達します。併せて、低価格な中国製部品の採用拡大を打診しています。また、1次仕入先に対しては、2次・3次仕入先からの汎用品活用と調達方法の見直しを要請しています。ただし、安全性能に関わる領域や地政学リスクは慎重に考慮し、走行性能や独自技術部品は特定サプライヤーとの共同開発を継続します。

サプライヤーへの対応として、EVプロジェクト中止に伴う投資回収不能分への補償に最大1.7兆円を充当します。また、2030年までのHEV増産計画を提示し、サプライヤーの生存を担保するとしています。

一方で日系部品メーカーは、前述した30%のコスト削減要求や、中国産への切り替えによる受注喪失リスクに直面しています。特にティア2以下の小規模メーカーでは、EV投資の回収不能による資金繰りの悪化が懸念されています。これを受け、豊田合成や武蔵精密などは日系完成車メーカーへの依存を脱却し、中国自主ブランドなどの新規取引先を開拓しています。なお、ホンダのコスト削減計画を受け、テイ・エス テック、エイチワン、ジェイテクトなどの株価が下落しました。