2026/09/05

年金「第3号制度の見直しと「130万円の壁」の行方


日本の公的年金構造と第3号被保険者制度

日本の公的年金は、以下の3つの区分で構成されています。

  • 第1号被保険者:自営業、フリーランス、学生などで、保険料は全額自己負担となります(2026年度は月額16,980円)。
  • 第2号被保険者:会社員や公務員で、保険料は労使折半で天引きされます。
  • 第3号被保険者:第2号被保険者に扶養される配偶者で、本人負担なしで基礎年金を受給できます。

第3号被保険者制度は、専業主婦が自分名義の年金権を持てるようにすることを目的として1985年に創設され、1986年に施行されました。保険料は、第2号被保険者が加入する被用者保険(厚生年金)全体で負担します。

第3号被保険者の認定要件は以下の通りです。

  • 配偶者が厚生年金に加入していること。
  • 配偶者の健康保険の被扶養者に認定されていること。
  • 年収130万円未満であること(60歳以上または障害者は180万円未満)。

制度の現状と社会情勢の変化

第3号被保険者の人数は、1995年度末のピーク時(約1,220万人)からほぼ半減し、2025年度末には約604万人(令和6年度末は約641万人)となる見込みです。属性は全体の98%が女性であり、その約半数がパート等の短時間労働に従事しています。

世帯構造も変化しており、共働き世帯(約1,200万世帯)が専業主婦世帯(約500万世帯)を大きく上回りました。女性の社会進出と家族形態の多様化により、制度が想定していた「標準世帯」が少数派となり、制度が時代と乖離しています。

現状の課題と見直しの方向性

制度と時代の乖離に伴い、以下の課題が顕在化しています。

  • 労働市場への悪影響:年収130万円の壁を意識した「働き控え」が深刻化し、企業の人手不足を加速させています。
  • 不公平感の増大:保険料を納付している共働き世帯、シングルマザー、自営業者の配偶者との間で不公平感が生じています。
  • キャリア形成の阻害:就業調整により、女性のキャリア形成機会の喪失と男女間賃金格差の固定化を招いています。

これらの課題に対し、年収基準の引き下げなどの対象要件の厳格化や、保険料の自己負担化などの見直し案が想定されています。

移行時のリスクとして、第3号から第1号へ移行した場合、年収100万円の人で年間約21.5万円の負担増となる試算があり、未納による低年金化が懸念されています。これに対し専門家は、就労困難者への免除・猶予制度や経過措置の設計が重要であると指摘しています。

制度見直しを巡る議論と方針

政府・与党は、適用拡大を先行させ、その後に第3号制度の縮小・見直しを行う方針です。対象者を絞り込んだ上で制度自体は存続させ、完全廃止は見送っています。

一方で、日本維新の会は制度廃止を主張しており、世帯年収3,000万円以上の第3号を段階的に適用除外にする案を提示しています。また、経団連や経済同友会などの経済団体も、段階的な廃止や見直しを提言しています。

社会保険適用の拡大と今後のスケジュール

社会保険適用の拡大では、2026年10月より全規模の企業で適用し、2035年10月までに企業規模要件を完全に撤廃します。加入条件は「週20時間以上」「雇用見込み2ヶ月超」「学生でない」という条件へ移行し、標準報酬月額12.6万円以下の人には3年間の保険料負担軽減措置が導入されます。

今後のスケジュールは以下の通りです。

  • 今年度中:2万人規模のアンケート・ヒアリングによる実態調査と課題整理を実施。
  • 2026年4月:自民党と日本維新の会が制度縮小の方向で一致。
  • 2026年9月:経団連、連合、研究者らで構成される有識者検討会の初会合を開催。
  • 2030年:次期年金制度改正への反映を目指す。

関連する制度変更

年金制度の見直しと並行し、以下の制度変更や提案がなされています。

  • 税制:令和8年度から所得税非課税ラインが178万円に引き上げられます。
  • 医療保険:被扶養者制度のあり方について、同様の見直しが提案されています。
  • 資産形成:2026年12月よりiDeCoの拠出限度額が引き上げられ、老後資金形成が支援されます。