事件概要
2020年8月28日午後7時過ぎ、福岡市の商業施設「MARK IS 福岡ももち」女子トイレで刺殺が発生した。
被害者は21歳の吉松弥里さんである。
加害者は同日2日前に少年院から仮退院した15歳の少年で、包丁で十数回刺された。
加害者の背景
幼少期に身体的・性的虐待を受け、児童養護施設を転々とした。
14歳で少年院に送致し、以後暴力トラブルを繰り返した。
医療・服薬状況
在院中は精神科医の指示に基づく投薬治療を受けていた。
仮退院直前に投薬が打ち切られた。
仮退院時の条件は「精神科医の指示に従い、衝動抑制に必要な服薬を継続すること」であった。
退院後、薬を所持していなかったことが報告された。
仮退院後の生活
身元引受人である母親は受け入れを拒否した。
更生保護施設への入所予定時に薬未所持が確認された。
少年院の処遇と仮退院決定
少年院は投薬中心の対処療法を実施し、特性に応じた処遇プログラムやトラウマケアは行わなかった。
加害者に関する情報は更生保護施設等へほとんど共有されなかった。
仮退院は処遇段階が最高段階であるか、または「仮に退院させることが改善更生に必要」と判断された場合に許可された。
本件では処遇段階が未達であるにもかかわらず、仮退院が許可された。
少年院関係者や外部関係者は「いつか事件が起こるのではないか」と危惧していた。
刑事判決
2022年7月、福岡地裁は加害者に懲役10年から15年の不定期刑を言い渡した。
判決は確定している。
2026年現在、加害者は20歳超で少年刑務所に収監中であり、最長約10年で社会復帰が見込まれる。
民事・損害賠償訴訟
- 2023年3月、遺族が加害者に約5400万円の損害賠償を求めて訴訟を提起した。
- 2025年3月、福岡地裁は加害者に約5400万円の支払いを命じ、母親への請求は棄却した。
- 2024年と2025年に福岡高裁は母親にも連帯責任を認め、同額の支払いを命じ、母親は上告中である。
国家賠償訴訟
- 2023年3月、遺族が少年院(国)に対し処遇・情報共有不備を理由に国家賠償を求めて訴訟を提起した。
- 訴状は少年院側が事件発生リスクを把握していたことを主張した。
- 法務省内部文書(重大再犯報告書等)が争点となり、情報公開請求で開示された文書は大部分が黒塗りであった。
- 2025年8月、福岡地裁は国側に内部文書の提出を命じたが、遺族側に提供された部分はほぼマスキング状態であった。
社会的・制度的議論
2023年12月に開始された心情等伝達制度により、遺族が加害者に思いを伝えることが可能となった。被害者遺族の母親は同制度を利用し、加害者から返答を受け取った。
仮退院は更生保護法および関連省令に基づく制度であり、保護観察下で生活指導・住居・就業支援が提供される。令和3年の少年院からの仮退院者は1567人で、99.6%が仮退院であった。
遺族は「処遇プログラムの不備」「情報共有の欠如」「投薬打ち切りの判断」の改善を要求している。
法務省は事件後に内部文書を作成し、再発防止策を検討しているが、公開状況は不透明である。
今後の注目点
- 法務省内部文書の真偽と開示範囲が国家賠償訴訟の判決に与える影響。
- 服薬継続条件の実効性確認と退院後の薬剤管理体制の強化。
- 更生保護施設との情報共有プロセスの制度化。
- 心情等伝達制度等、被害者遺族への支援制度の評価と改善。
- 包括的な矯正・支援体系の構築。