2026/09/04

給与の誤送金を使い込むと逮捕?電子計算機使用詐欺罪の恐ろしさ


給与の誤送金に伴う従業員の逮捕事例

運送会社が給与振込の際、「6」を一つ多く入力するミスをしました。これにより、本来の給与額である20万4,462円に対し、約10倍の204万4,662円が誤って振り込まれました。

この誤送金を受けた元従業員の男(40歳)は、会社からの返還請求に応じませんでした。男は誤送金された金額のうち50万円のみを返還し、40万円を別口座に送金しています。男は「間違って振り込まれたお金を自分で使おうと思った」と動機を述べており、誤送金後に会社を退職し、連絡を絶って逃走しました。

佐賀南署は2024年3月3日、男を「電子計算機使用詐欺」の疑いで逮捕しました。

電子計算機使用詐欺罪の法的解釈と判例

電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)は、虚偽の情報等を電子計算機に与え、不法な財産上の利益を得る罪です。成立には、不実の電磁的記録の作出または虚偽の電磁的記録の供用により、財産上の不法な利益を取得することが要件となります。

本罪は、欺く対象が「人」である詐欺罪や、ATMから現金を引き出すなど銀行の占有下にある財物を移転させる窃盗罪とは異なり、欺く対象が「コンピューター」である点が特徴です。

オンラインバンキングでの送金操作は、「正当な権利行使である」という情報を前提としています。そのため、誤振込の認識がありながら銀行への告知義務を怠り操作することは、「虚偽情報の入力」とみなされ、本罪が適用されます。

この解釈に基づく判断基準や事例は以下の通りです。

  • 最高裁判所の判断:1996年の判例では、誤振込であっても受取人はひとまず引き出す権利が生じるとされています。一方で2003年の判例では、受取人は銀行に誤振込であることを告げる義務があり、これを怠って引き出した場合は罪に問われるとされています。
  • 山口県阿武町の給付金誤送金事件:担当職員のミスで1世帯に4,630万円が誤送金され、被告人が全額出金し大部分をオンラインカジノに使用しました。前述の告知義務を怠ったまま送金操作を行ったとして、電子計算機使用詐欺罪により懲役3年、執行猶予5年の判決が下されました。

過払い給与の回収実務とリスク

会社側は不当利得返還請求権に基づき、過払い分の返還を請求できます。請求範囲は従業員の認識状況により異なります。

  • 従業員が過払いを知っていた場合:全額および利息を請求可能(民法704条)。
  • 従業員が知らずに使い込んだ場合:現存利益の範囲で請求可能(民法703条)。

回収にあたり、給与控除を行う場合は原則として従業員の自由意思に基づく同意が必要です。手取り額の1/4を超える控除は、生活の安定を脅かすため違法となる可能性が高くなります。ただし、労使協定、就業規則、労働協約に規定がある場合は、同意なしの控除が可能です。

弁護士等の専門家は、丁寧な事情説明による相互理解を最優先することを推奨しています。回収困難な場合は訴訟や差し押さえの手続きとなりますが、時間と費用がかかり、全額回収の保証はないとしています。