2026/09/01

SNS虚偽情報と日本の名誉毀損法―現状と対策と課題


事件概要

2023年3月31日、中国公安当局はネパール・中国国境の土石流に関する虚偽情報を拡散したとして、チベット自治区在住とみられる10名を摘発した。

対象の投稿は、SNSのコメント欄等に「中国側で数千人が一瞬で死亡した」「中国の行方不明者数は826人」と記載されたものである。

同年、同様の投稿に関与した計16名の中国人が逮捕されたと当局は発表し、関連投稿の監視を強化するとした。

チベット自治区政府は偽情報が一部で流布していることを認め、「臆測の情報を広めてはならない」と呼び掛けた。

日本における法的枠組み

名誉毀損罪(刑法第230条)

公然と事実を摘示し人の名誉を毀損した者は、3年以下の懲役若しくは禁錮、または50万円以下の罰金が科される。

この罪は事実の真偽を要件に含まない。

  • 公然の場での事実摘示
  • 人の名誉が毀損されたこと

侮辱罪(刑法第231条)

具体例を提示しない場合に適用される。

民事上の不法行為としての名誉毀損

名誉毀損は不法行為とされ、損害賠償(慰謝料)の請求対象になる。

  • 一般人の場合:10万円〜100万円
  • 政治家・社会的影響が大きい人物の場合:数百万円〜数千万円

原状回復措置として謝罪広告等が求められ、民法第723条に基づく責任が発生する可能性がある。

免責要件

次の三要件が証明できれば、名誉毀損の責任が免除されることがある。

  • 事実に公共性があること
  • 公益目的であること
  • 事実が客観的に真実であること

統計・数値データ(日本)

検察統計(2021年度)では、名誉毀損で検挙された件数は1,040件、逮捕に至った件数は108件である。

日本においては事実陳列自体に罰則規定はなく、名誉毀損や威力業務妨害、不正競争防止法違反などで逮捕・起訴が行われるケースがある。

比較事例・関連事件

済州警察(韓国)

2026年8月22日~24日にかけて、行方不明者届が出された4名の遺体が発見された。虚偽終結処理が問題化し、警官・警長が逮捕・再逮捕された。

虚偽報告により社会的混乱と旅行キャンセルの懸念が拡散し、「3,000人消失」という噂は通報件数累積の誤認であると説明された。

中国・北朝鮮の独裁体制例

政府に不都合な事実を公表しただけで死刑になるケースが報告されている。

これらの事例は、虚偽情報が社会的混乱を招く実例として、以下で論じる課題へとつながる。

課題と展望

法律的課題

「事実陳列罪」という架空概念がSNS上で拡散している。

SNS投稿が非公開でも閲覧可能な場合に公然とみなす解釈が広がっている。結果として、公然の場とみなされる範囲が拡大している。

免責要件の実務上の立証は高いハードルがある。弁護士等専門家の判断が必要になる。

社会的影響

虚偽情報の拡散は国内外で社会混乱や旅行需要の減少につながる可能性がある。

名誉毀損訴訟や慰謝料請求が増加し、個人や組織のリスク管理が重要になる。

今後の取組み

上述の社会的影響を緩和するために、当局はSNS監視の強化と情報リテラシー教育の推進を計画している。

公共性・公益性のある情報発信に対する法的保護の明確化が求められる。

国際的な情報操作・虚偽情報対策の協調体制構築が言及されている。