2026/09/06

王貞治から始まった「国民栄誉賞」の歴史と制度、受賞の光と影


王貞治さんの国民栄誉賞受賞

1977年9月5日、王貞治さんは国民栄誉賞の第1号として表彰されました。受賞の理由は、9月3日のヤクルト戦でハンク・アーロン氏を更新し、通算756号ホームランの世界記録を樹立したことです。この記録達成時の視聴率は40%前後に達しました。

王さんは独自の「一本足打法」を編み出し、通算868本のホームランという不滅の記録を樹立しています。また、中華民国籍であり、唯一の非日本国籍保持者の受賞者です。なお、文化勲章や紫綬褒章は受けていません。

受賞後、園遊会などの行事による社会的喧騒で野球に打ち込む時間が削られ、集中力が低下しました。この「スポイル」された感覚が、1980年の早めの引退の一因となりました。

国民栄誉賞の創設と制度概要

当時の福田赳夫首相は、1977年8月30日に国民栄誉賞を創設しました。既存の「内閣総理大臣顕彰」ではプロスポーツ選手への適用が困難でした。また、王さんが文化勲章などの叙勲を受けるには若すぎたため、快挙を即座に称えるための柔軟な制度を新設しました。

本賞は内閣総理大臣表彰の一つであり、国民栄誉賞表彰規程に基づいています。「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があった者」を称えることを目的としています。

制度の詳細は以下の通りです。

  • 選考プロセス:内閣総理大臣が決定します。民間有識者の意見を参考に本人へ打診を行いますが、明文化された選考基準や委員会は存在せず、首相の判断に委ねられています。
  • 授与内容:正賞として表彰状および盾が贈られます。副賞として記念品または金一封が贈られますが、現在まで金一封が贈られた例はありません。
  • 授与対象の拡大:2011年の規定変更により、個人だけでなく団体への授与も可能となりました。

主な受賞者と辞退者

スポーツ分野の主な受賞者は以下の通りです。

  • 衣笠祥雄:連続試合出場の世界記録
  • 山下泰裕:日本人で初めて存命中に受賞
  • 羽生結弦:最年少記録。副賞の記念品・金一封を唯一辞退
  • 国枝慎吾:パラスポーツ初

特例的な授与として、2011年にはなでしこジャパンが初の団体受賞となり、2013年5月5日には長嶋茂雄さんと松井秀喜さんが東京ドームで同時に受賞しました。

文化・芸術分野では、古賀政男さん、長谷川一夫さん、美空ひばりさんが受賞しており、没後追贈される傾向が強いのが特徴です。

一方で、受賞を辞退した人物もいます。

  • イチローさん:2001年、2004年、2019年の計4回打診を辞退。「まだ現役であること」と「王氏のようなスポイルを恐れたこと」を理由としています。
  • 大谷翔平さん・小関裕而さん:「まだ成長の途中」「まだ早い」として辞退しました。
  • 福本豊さん:「王氏のような国民に愛される人物になれる自信がない」として辞退しました。

制度の運用課題

国民栄誉賞の運用にはいくつかの課題があります。選考基準が曖昧であることから、時の政権による「政治利用(スポーツウォッシング)」との批判が存在します。ただし、2021年のNHKの調査では、授与による内閣支持率の上昇効果はほぼないと結論づけられています。

また、規定上の「者」という表現が、団体授与において法的に不十分であるという意見があります。さらに、スポーツ選手は若年時に、文化人は没後に贈られるという構造的な傾向も見られます。