2026/09/06

【徹底解説】自動車から産業用まで、クラッチの仕組みと基礎知識


クラッチの基礎知識

クラッチは自動車の駆動伝達機構であり、エンジンとトランスミッションの間で動力を伝達および遮断する装置です。エンジン始動時やシフトチェンジ時に負荷をゼロにすることで、停車時のエンジン停止や発進時の衝撃を防ぎます。

クラッチに要求される性能は以下の通りです。

  • 操作の容易性と確実性
  • 適正な伝達トルク容量
  • 十分な放熱・吸熱能力
  • 変速を容易にするための小さなディスク慣性力

伝達トルク容量は、スプリングによる圧着力、クラッチ板の摩擦係数、摩擦面積によって決定されます。余裕係数は一般的にエンジン最大トルクの1.2〜1.5倍に設定され、大型車やディーゼル車ではより高く設定されます。この係数の設定による影響は以下の通りです。

  • 低すぎる場合:滑りが発生し、発熱とフェーシングの摩耗が急増する
  • 高すぎる場合:操作が困難になり、接続時の衝撃負荷で部品を損傷させる恐れがある

構造と方式

プレート構成には、一枚の大きなプレートで構成される単板式(四輪車や一部のBMW車に採用)と、小さなプレートを複数枚重ねて摩擦面積を拡大した多板式があります。多板式は強大なトルクの伝達が可能です。

冷却・潤滑方式は、オイルで潤滑・冷却を行い耐久性と静粛性に優れた「湿式」と、走行風で冷却し馬力ロスが少ない「乾式」に分かれます。乾式は操作がシビアでメカノイズが発生しやすい特徴があります。

ばね方式は、摩耗によるばね力変化が少なく均一なダイヤフラムスプリング式(皿バネの一種)が主に乗用車に採用されています。一方、摩耗に伴いばね力が減少するコイルスプリング式は、主にバスやトラックなどの大型車に採用されています。

自動車のクラッチ構成部品と操作機構

主要構成部品の役割は以下の通りです。

  • フライホイール:回転の勢いを蓄え、エンジンの回転ムラを均してアイドリングを安定させる。
  • クラッチディスク:動力を伝える媒体。摩擦材(フェーシング)と、衝撃吸収用のトーションスプリングを備える。
  • クラッチカバー:プレッシャープレートを用いてディスクをフライホイール側に押し付ける。
  • レリーズベアリング:ダイヤフラムスプリングと接触し、心ずれを自動補正しながら動作させる。

操作機構には、ケーブルで直接接続する簡素な機械式と、油圧を用いて伝達する油圧式があります。油圧式は動作が軽く滑らかなため、スポーツ車や大型車に採用されています。油圧式の伝達フローは以下の通りです。

  • クラッチペダル → マスタシリンダ(油圧発生) → レリーズシリンダ(直線運動に変換) → レリーズフォーク → レリーズベアリング

油圧式はエアが混入すると作動が不正確になるため、液量や漏れの管理が必要です。また、強力なばねを持つ大型車には、操作力を軽減させるクラッチ倍力装置が搭載されています。

二段クラッチシステム(スーパーカブ110)

多板クラッチなどの構造を応用した事例として、ホンダ スーパーカブ110の二段クラッチシステムがあります。これは、クランク軸上にシュー式の発進用クラッチを、ミッション軸上に多板クラッチ式の変速用クラッチを分離して配置した構成です。これにより、変速時のショックを軽減し、スムーズな発進となめらかな変速を実現しています。従来のシステムでは、クランク軸上に発進用と変速用を兼用した遠心多板クラッチがレイアウトされていました。

本車両はクラッチレバーがなく、AT小型限定免許で運転可能です。シーソー型シフトペダルがクラッチ機能を兼務し、以下の手順で動作します。

  • 踏み込み始め:クラッチを切断
  • 奥まで踏み込む:ギアチェンジを実行
  • ペダルを戻す:クラッチを接続

ペダルを踏み込み切った状態で保持することで、回転合わせなどのスポーツ走行が可能です。ミッションは走行中に4速リターンミッションとして、停止中に4速とニュートラルの間を移動するロータリーミッションとして動作します。

搭載されている自動遠心クラッチは、回転数上昇による遠心力でウェイトが開き、クラッチ板を圧着させる原理を用いています。主な機能は以下の通りです。

  • 発進時の自動接続:スロットル操作による遠心力で徐々に接続する。
  • チェンジ時の強制切断:チェンジペダルと連動し、優先的に動力を切断する。
  • 始動時の強制接続:キック始動やエンジンブレーキ時、ミッション側からの回転力で強制圧着する。

アイドリングなどの低回転域では自動的に切断されるため、エンストを防ぐことができます。

産業用クラッチユニット

自動車以外では、モーター等の動力源と機械の間で回転軸の接続(ON)と切り離し(OFF)を制御する産業用クラッチユニットが用いられます。構成は駆動側、従動側、クラッチ機構部、制御回路からなり、産業機械、搬送装置、印刷機、工作機械などに利用されます。

駆動方式別の種類は以下の通りです。

  • 電磁クラッチ:磁力で摩擦板を圧着し、数十万から数百万回の動作が可能。
  • スプリングクラッチ:スプリング力で接続し、小型装置向けに利用。
  • エアクラッチ(空圧):空気圧で押圧し、大型機械や高トルク向けに利用。
  • 油圧クラッチ:油圧シリンダで制御し、高出力機械やプレス機向けに利用。
  • 摩擦クラッチ:摩擦力を用いてスムーズにトルクを伝達。

主要メーカーとして、電磁クラッチ・ブレーキの三木プーリ、高トルク用途の椿本チエイン、FA・ロボット向け小型ユニットのオリエンタルモーター、PLC連携・通信制御可能なユニットのオムロンが挙げられます。