退去強制の制度とプロセス
入管法第24条に基づき、有効旅券の不所持、不法上陸、在留資格の取消、オーバーステイ、特定犯罪歴などの事由がある場合に退去強制が行われます。送還の形態は以下の3通りに分類されます。
- 自費出国:本人が費用を負担する原則的な手法。
- 運送業者負担:上陸審査時の不備や特定事由がある場合。
- 国費送還:費用支弁が不可能であるか、人道的に早期送還が必要な場合に税金を財源として実施。
コスト抑制策として、2013年からはチャーター機による集団退去が導入されており、2020年3月にはスリランカ人44人を約4,000万円の費用で送還した実績があります。また、救済・緩和措置として、法務大臣の裁量による「在留特別許可」、簡易手続による「出国命令制度」、収容せず監理人の監督下で社会生活を送る「監理措置制度」が設けられています。
退去強制の標準的なフローは、違反調査、収容(または監理措置)、違反審査、口頭審理、法務大臣裁決、退去強制令書発付、そして執行の順で進行します。なお、昭和53年の最高裁判決において、外国人に在留の権利や、引き続き在留することを要求し得る権利は保障されていないとされています。
政府の方針と送還の現状
日本政府および入管庁は、2024年5月に非正規滞在者を対象に国費による強制送還人数を倍増させる「ゼロプラン」を発表しました。これに伴い、2024年6月施行の改定入管難民法では、不法滞在の長期化を防ぐため、難民申請3回目以降の申請者を送還対象とする「例外規定」が新設されました。
2025年の統計では、護送官が同行した強制送還者が318人と過去最多を記録し、前年より69人増加しました。また、新設された例外規定による送還者は52人にのぼり、前年比で7.5倍に増加しています。国籍別の送還者数は、トルコ(71人)が最多で、次いでフィリピン(46人)、スリランカ(44人)となっています。
一方、難民認定の審査状況については、2025年の申請者数が1万1298人と3年連続で1万人を超えました。これに対し、認定者数は187人(うちアフガニスタン人が123人)にとどまり、認定率は1.4%と前年より0.8ポイント低下し、2年連続で低下しています。2024年の認定率を国際比較すると、英国の42.4%やドイツの約15.6%に対し、日本は著しく低い水準にあります。
個別事案とそれを取り巻く論争
2020年に来日し難民申請をしたが認められず在留資格を喪失したクルド人の家族(夫婦と小学生の子ども3名)に関して、以下の事案が発生しました。
- 2026年7月:東京入管に出頭。父親が帰国に同意し、家族全員分の9月出国の航空券を購入。
- 8月中旬:再び出頭し、航空券予約票を提示して自主帰国の予定を伝達。
- 同日夜:入管側がこれを聞き入れず、職員8名を同行させ、国費でトルコへ強制送還した。
この事案に対し、東京新聞は、帰国予定の外国人をあえて国費で送還したことが「税金のムダ使いではないか」と報じました。また、渡辺彰悟弁護士は、航空券まで購入している者を強制送還する例は前例がなく問題であると指摘し、駒井知会弁護士は、やみくもな送還ではなく守るべき人を守る審査制度への刷新を主張しています。
制度的課題と今後の方向性
制度的な課題として、以下の点が懸念されています。
- 自主帰国を準備している者にまで強制送還を適用する手法への疑問。
- 国際的な「ノン・ルフールマンの原則(難民申請中の送還禁止)」との整合性。
- 認定されるべき人が漏れて送還されるリスク。
今後は、濫用的な難民申請への対策である「ゼロプラン」の完遂とともに、厳格な法執行と人道的配慮の両立、ならびに家族関係や日本社会への定着度などを総合的に判断する在留特別許可の適正な運用が方向性として挙げられています。
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