半導体技術の重要性と経済安全保障上の課題
潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂用カプセル型硬化剤として、電子部品や自動車、土木などの分野で活用される。半導体製造工程で使用される接着剤の原料に関する情報は、企業の競争力の源泉である。
半導体関連技術が人材移動に伴い海外へ流出する事態は、日本の競争力源泉に対する重大な課題である。
旭化成元従業員の不正競争防止法違反による逮捕
製造技術第2部長などの要職を務めた旭化成の元従業員、古川祥一容疑者が不正競争防止法違反の疑いで逮捕された。
古川容疑者は2018年11月末に旭化成を退職した。
不正行為の経緯は以下の通りである。
- 2018年11月30日ごろ、営業秘密の製造データが入った電磁的記録媒体(ハードディスク)を会社に返却せずに持ち出した。
- 2024年9月13日ごろに、他の企業の関係者へメールを通じてデータを送信した。
流出された機密情報の特定
流出した機密情報は、潜在性硬化剤「ノバキュア」の製造に関する営業秘密である。
具体的には、最先端の半導体パッケージ実装に不可欠な一液性接着剤向け材料技術や、マイクロカプセル化技術による特殊な製品技術が含まれる。
流出先は中国の化学メーカー「山東聖泉新材料股份有限公司」であることが調査により確認された。
流出した情報には、取引先から預かった技術資料や個人情報は含まれていない。
適用された法的枠組みと捜査の進展
今回の事案では、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)が適用される。
この犯罪には、営業秘密の「領得」(記録媒体の横領や複製作成)と「開示」(使用・開示)の両方の行為が含まれる。
法的根拠として、21条2項(領得)および21条5項(国外使用目的での開示)が適用される。
2023年の法改正により、国外で日本企業の営業秘密が侵害された場合にも日本の不正競争防止法が適用可能となった。
民事訴訟においては、不正競争防止法21条に基づき損害賠償請求が適用される。
企業による対応と再発防止策
愛知県警は2026年9月17日、古川祥一容疑者を不正競争防止法違反(営業秘密の開示)の疑いで逮捕した。
旭化成は、元従業員および中国企業に対し、情報の利用停止や廃棄を目的とした民事訴訟を提起する方針を固めた。
法人に対する営業秘密侵害罪の海外関連加重類型の場合、10億円以下の罰金が定められている。
現在、流出した機密情報の不正利用が行われているかについて調査が継続されている。捜査では、流出先企業との関係性や見返りの有無について進められている。
再発防止策として、以下の体制強化が実施される。
情報管理の強化
- 技術流出防止体制の強化:機密情報の特定と区分の明確化を行い、刑事・民事の両面で争える管理実態を確立する。
- アクセス権限の見直し:機密情報へのアクセス権限を厳格化する。
- 新たなITツールの導入:情報管理を厳格化する。
従業員管理体制の強化
- 退職予定者に対し、情報管理ポリシーを厳格化し、誓約書や貸与PC管理を徹底する。
- 全役員と全従業員に対し、研修が再実施される。