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駅の陰で、老猫は土の上に腰を下ろした。石畳の冷たさと薄暗い明かりが鉄柵に映り、静かな闇が広がっていた。遠くで終わりの列車が鳴り止むと、踏みしるべが二度、そよぐように忍び寄った。男と女は向き合い、男が薄絹の葉書を差し出す。女はそれを抱きしめ、静かに頷いた。
老猫は女が葉書を抱く様子を、先端で軽く踏むように真似した。明かりが映す白い舞台。思い出が走り抜け、古びた劇団の練習が駅にあったと悟った。葉書には母猫の「歩き方」だけが書かれていた。老猫は導かれるように柵を降り、踏み出すとコンクリートが震え、プラットホームの隙間から古びた木箱の輪郭が薄く浮かび、かつての舞台装置が現れたかのように様相を現した。
箱の内部から星の欠片のように輝く球体が浮かび上がった。鼻先でつつくと輝きが体を満たし、忘れられた観客その事となった。輝きは老猫に、演じ続けた己が本当の観客でもあると告げた。
老猫は輝く球体と再び座り、向こう側のそよぎがはるかの汽笛を運び、プラットホームは再び静寂に包まれた。だが精神の内部では、母猫の教えと輝く観客が溶け合い、観る側でも演じる側でもある己を静かに受け入れた瞬きが広がっていた。
老猫は静かに立ち上がり、輝く球体に身を寄せると、ゆっくりとその表面に乗り、ゆらめく輝きの道へと消えていった。