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薄明の本屋
朝、古びた木の扉がゆっくりと開く。主人は小さなカードを差し出す。カードには季節の絵と短い句が描かれ、裏側には静かな語が添えられている。
その日、背負い袋を大きくした少女が入ってきた。「この本、探してた」と言う。表紙は淡い青で、柔らかな色合いが漂う。主人はにっこりしながら「本に印を残すと、読むたびに温もりが届く」と語り、カードを渡す。少女は本を受け取って、裏の句を読む。「母が読んでくれた本」――そう思い、いつか大人になったら同じ本を渡すと決めた。
しばらくして、空が澄んだ夕暮れ、扉が再び開くと少年が立っていた。「妹の本、置いてくれ」と言う。主人はカードの裏に感謝の語と名を書き添える。「ありがとう」――そのカードは少年が受け取り、思いに灯がともるようだった。
灯がゆっくりと弱まり、主人は棚へ戻った。そのすぐ横で黒い猫がすり抜ける。宵の静けさに包まれ、猫はカードの句を舐め、ひげでカードの端を探り、温もりを味わう。
それは、過ぎ去った思い出のかけらを舐め取り、思いの深部にそっと抱き込むようだ。
人はもう見えないが、主人が静かに去ったことは、棚の隅に残されたカードの痕跡でだけ示されている。
猫は本の列を静かに歩き、裏の語が語る「また会える日」を思いに抱き続けていた。
ある宵、扉が静かに開く。そこにいたのは、かつて本を探した少女と少年――二人は年を重ね、白髪が混じる顔でほほえんでいた。彼らはカードを受け取って、裏の句を読む。「春の滴、入口の隙間に灯る灯」――その灯は、主人が残した温もりと、猫が守り続けた思い出が、現在もここにあることを告げていた。
本屋の灯は消えたが、暗がりで猫は静かに舐め続け、新たな訪問者へと物語を渡す準備をしていた。