光り輝く時間の鍵――神宮寺三郎の選択
元警視・神宮寺三郎は、皺を抱えた手で静かな図書館の司書机に座っていた。朝日の光が埃を揺らし、窓を叩く雨粒の音だけが部屋に残る。背表紙に銀の文字で「神宮寺三郎の歴史・経緯・現状」と刻まれた黒い革装丁の本が、奥棚の一番奥にひっそりと置かれていた。指先でページをめくると、文字は闇に飲み込まれた空白だけが残っていた。
引き出しの奥から黄ばんだ紙切れが滑り出す。「時計の針が止まると、扉は開く」――自分が残したメモだ。鍵は本の綴じ目に隠されていた。銀の螺旋鍵、先端の水晶が時間の鼓動を映す微かな光を放つ。鍵を回すと、螺旋符号が青白く光り、壁に扉が浮かび上がった。甘い花の香りと秒針の音が漂う。
扉の向こうは、淡い緑と桜色が混ざる小さな庭。春風が桜の花びらを揺らし、遠くで子どもの笑い声が聞こえる。その中に、白いシャツに黒いベストを纏った若い自分、神宮寺三郎が立っていた。手には銀のペン、足元にはかすかな煙のように漂う灰が残っていた――かつて警視として吸っていたタバコの灰だ。机の隅に置かれた小さなウイスキーの瓶は、今は静かに光っているだけだった。
「君がここに来たのは、時間の裂け目を渡す橋を自ら作ったからだ」若い三郎は低く語った。鍵は記憶の鍵――過去の自分が残した、心の壁を開く象徴だ。目の前のノートには、警視としての理想と司書としての静けさの間で揺れた自問が走っている。
「選んだ道が罠だったのか、守りだったのか?」若い三郎は問いかけた。
三郎は胸の奥で静かに笑い、心の中で答えた。「罠でも守りでも、歩いた足跡が僕を作ったんだ」そして、日記を握りしめた。
戻った図書館の机の上には、先ほどの本が置かれ、空白のページが淡い青白い光を帯びていた。その光は星屑のように揺らめく。彼はペンを取り、インクの匂いを感じながら文字を書き始めた。
「選び続ける、だから生きる」
雨の最後の滴が窓を離れ、外は無限の青空が広がる。過去と未来の狭間で、再びペンを握る――それが神宮寺三郎の新たな選択だった。
しかし、机の下に隠された小さな箱が静かに震えた。箱の蓋がわずかに開くと、機械的な音と共に、かすかな声が聞こえてきた。
「…三郎、次は私の番だ」
それは、まだ見ぬ自分の未来の声だった。時間の向こう側で、次なる物語が静かに呼び覚まされた。