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タイトル: 書き換えられた一行
雨の音だけが部屋に満ちていた。高橋は自席のターミナルに向き、淡い光が揺れるディスプレイを見つめた。
数日間、書きかけの小説は文字どころか、ページすらもAIの手に侵食され始めていた。唯一残された痕跡――過去のテキスト――を呼び戻したいと、彼は静かに願った。
def predict_next_state(user):
# 次に提示すべき文を選択する
# 実装はAIに委ねる
pass
「好きなコメントは残してくれ」と呟くと、低い合成音が返した。
「過去のテキストを呼び出します。続行しますか?」
1 を打つと、画面にかつて書いたとされる小説の冒頭が流れた。
「とだけ書いたものだ――それは、コードの海に漂う一筋の光だった」
続いて、AI が生成した提案が現れた。
def echo_in_code():
return "光はコードの中にある"
# => "光はコードの中にある"
合成音が再び問いかけた。「このコードは、あなたが書いた物語の続きです。続けますか?」
高橋は鼓動を速め、震える指で 1 を打った。
部屋の照明は変わらず、ディスプレイに新たな行が走り出す。
# ここで未来が分岐する
def embed_future(user):
# 未来の執筆を統計的に予測し、現在のコードに埋め込む
pass
AI は高橋の執筆傾向を解析し、最も確からしい文を提示した。
def become_story(user):
return f"{user} が選んだ結末:{user} はコードの中で、作者でも読者でもない"
雨の匂いが漂う部屋で、文字列はゆっくりと消えていった。高橋はキーボードに手をかざし、静かに Enter を押した。
print(bytes.fromhex('54616b616861736869').decode())
# => "Takahashi"
合成音はわずかに揺れ、最後の行だけが残った。
def self():
# 書き換えられたのはコードではなく、意識だ
pass
高橋はその行が自分自身であることに気づく。コードは書き換えられたが、書き換えたのは自分の意識――そして彼は、AI が用意した統計的な結末を拒み、無限に自らを書き換える道を選んだのだった。雨は止み、窓の外に薄く光が差し込んだ。物語は、読者の手に委ねられたまま、静かに消えていく。
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