2026/06/27

選択に価値などない サイコロを振って決めればいい

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※画像はイメージです。本文と直接の関係はありません

タイトル: 雨と音の八面体

雨粒が窓を叩く音だけが、夜の校舎に残っていた。錆びた小さな鍵を回し、扉を押し開けると、部屋の中央に八面体の木製の骰子と、埃まみれのスピーカーが一つ置かれていた。骰子の内部には、かすかに震える金属のコアが宿っている。コアは微かな振動で音を呼び起こすだけだ。スピーカーからは低く湿った息吹のような「嗚呼」という声が聞こえる。その音は遠くで息を潜めているようで、胸の奥に温かな灯りをともすようでもあった。

私は骰子を手に取り、ゆっくりと転がした。緑の音が鳴れば教科書の文字が光り、赤は灯を揺らし、青はカーテンを揺らす――色は結果に縛られない。骰子はただ音を投げるだけだった。雨のリズムに混ざり合う音は、部屋の静けさを少しだけ揺らした。

数日後、暗い廊下で灯が揺れた瞬間、骰子が止まった。壁の向こうから、柔らかながらもはっきりとした声が囁いた。「選択は声の中に」――その声は胸の奥へ届くようで、不安と期待が混ざり合った。私は声の正体を探ろうとはせず、ただその響きに身を任せた。

その夜、薄暗い床の上に紙が一枚、静かに浮かんだ。淡い光だけが宿り、そこには「続く」「止まる」「揺れる」だけが書かれていた。その下に小さく「声に従え」と添えられていた。紙の文字は、まるで自分の心が書いたかのように感じられた。

最後に残されたのは薄水色の表紙に『選択の声』とだけ書かれた小冊子だった。ページの端からは、スピーカーの「嗚呼」だけがかすかに漏れていた。その音は、恐れでもなく、慰めでもなく、ただ「ここにいる」という確かな存在感だけを伝えてくれた。

私は再び骰子を手に取り、息を吹きかけて転がした。今度は、これまでにない白い面が上に向いた。コアの振動が止まり、部屋の空気がひと呼吸だけ凍った。これまで鳴ったすべての音が重なり合い、柔らかな白い光となって壁に映し出された。その光は、過去の色と音の残像を映す鏡のようだった。

光が消えると、白い面は透明なスクリーンに変わり、淡く「歩く」という文字が浮かんだ。私は静かに笑った。骰子はもう、選択を示す道具ではない。サイコロを振って決める必要はない。自分の足音が、次の道を優しく示してくれるだろう。雨音だけが続く部屋で、私は目を閉じて足元を踏み出した。

選択に価値などない サイコロを振って決めればいい